Ai国際医療研究所

ジャーナルクラブ

ハゲタカジャーナルによる影響:科学汚染

「ジェーンさんは,乳がんで標準治療を終えた後,代替医療(現代医学に代わる治療法 https://shikoku-cc.hosp.go.jp/cam/camwhat/index.html)に関心を持ちました.代替医療担当者は、ビタミン注射の文献を紹介し,彼女と担当者は根拠のある希望を見出しました.しかしながら,ジェーンがその論文を義理の息子(このNatureのコメント著者の一人)に見せたところ,彼はその論文がハゲタカジャーナルから来たものであることに気づきました.」

https://www.nature.com/articles/d41586-019-03759-y

ハゲタカジャーナル出版社(Predatory publishers)という言葉は2010年に生まれ,その後数を増やしています.

ハゲタカジャーナルの被害者は,世間知らずの読者だけではありません.多くの研究者が騙され投稿しています.

研究者は研究費からハゲタカジャーナルに掲載費を支払っています.この研究費の多くは,科研費など私たちの税金から支払われるものです.

ハゲタカジャーナルによる科学汚染は深刻です.日本ではどの程度汚染の影響があるのでしょうか?

毎日新聞の調査が参考になります.

Over 5,000 Japanese articles published in ‘predatory’ journals
September 3, 2018 (Mainichi Japan)

この記事によると,ハゲタカジャーナルの犠牲になった大学は,以下のようなランキングになっています.

順位大学名件数
1位九州大学147
2位東京大学132
3位大阪大学107
4位新潟大学102
5位名古屋大学99
6位日本大学87
7位北海道大学74
8位広島大学73
9位京都大学66

旧帝大などトップユニバーシティが上位件数を占めるのは致し方ありません.投稿する件数が多いからです.

パーセンテージでいけば,圏外の大学が上位にあがると思います.

実際地方の大学で「英語雑誌で日本語から翻訳もしてくれてこのお値段!」と喜んで掲載してもらっていた先生がおられました.

国際誌に掲載しないと業績として認められません.査読はなくお金を払えばすぐに掲載してくれる,しかも雑誌名はちゃんとして見えるハゲタカは一部の先生方には魅力でしょう.

ハゲタカジャーナル増加には,研究者の無知や倫理観の欠如が貢献していることは間違いないと思います.

ハゲタカジャーナルの定義

先日,ハゲタカジャーナルの話題をジャーナルクラブで取り上げました.

一般の方だけでなく,大学研究者も知らない人がおられるみたいなので,解説しておきたいと思います.

Natureのハゲタカジャーナルに対するコメントも併せてお読みください.

https://www.nature.com/articles/d41586-019-03759-y

ハゲタカ/捕食/略奪的ジャーナルの定義

「略奪的ジャーナルおよび出版社とは,学問を犠牲にし自己利益を優先する団体であり,虚偽または誤解を招くような情報,最善の編集および出版慣例からの逸脱,透明性の欠如,および/または積極的で無差別な勧誘法を特徴とする」

ハゲタカジャーナルは学術誌を装い科学を汚染する非倫理的な雑誌または出版社です.

彼らは,著者からの掲載費用を目当てに,査読無しでどんな論文も掲載します.

「査読」は学術誌にとって大変重要な部分です.

論文というだけで信頼性があると思う人もいるかもしれませんが,論文(研究)には様々なクオリティがあります(これについてはまた別の機会にお話します).

あまりクオリティが高くない研究(論文)は,インパクトファクターが高い(質が高い)雑誌に掲載されることはありません.あまりにレベルが低いと,そんなにインパクトファクターが高くない雑誌でもリジェクトされてしまいます.

その学術誌の編集者や査読者は,投稿された論文が世界に発信するにふさわしいか,その雑誌に相応しいか,倫理的,専門的,科学的観点をもって吟味をします.

うっかり間違って,科学的,倫理的でない論文を掲載すれば,その雑誌の信頼性が落ちてしまいます.

どんな論文もアクセプトしてくれるのが,ハゲタカジャーナルです.

彼らの目的はお金のみ.それが盗用であろうがねつ造であろうが,構わないのです.

彼らは毎日,営業メールを研究者たちに送りつけます.

これは編集委員会へのお誘いメール

彼らは営業熱心で毎日のように,どこかのハゲタカがメールをくれます.「Get me off Your Fucking Mailing List (クソメーリングリストから私を外せ )」って繰り返し書きたくなるのもわかります.この写真の論文は,見事にハゲタカジャーナルにアクセプトされております.

査読無ってこういうことです(笑)

査読無論文がそれらしく世界に紛れ込んだ結果,どんなことが起こるのか・・・また次回お話したいと思います.

第23回ジャーナルクラブ:クリエイティビティと幸福度の関係/Long COVID(新型コロナ後遺症)

心理学は媒介分析多めですね

7月のジャーナルクラブは下記の内容で実施しました!オンライン&オフラインハイブリッドでご参加いただいた皆様,ありがとうございました!

前説(最新研究解説)

前説1.COVID19後遺症に関する論文をピックアップ紹介

Nalbandian, A., Sehgal, K., Gupta, A., Madhavan, M. V., McGroder, C., Stevens, J. S., Cook, J. R., Nordvig, A. S., Shalev, D., Sehrawat, T. S., Ahluwalia, N., Bikdeli, B., Dietz, D., Der-Nigoghossian, C., Liyanage-Don, N., Rosner, G. F., Bernstein, E. J., Mohan, S., Beckley, A. A., Seres, D. S., Choueiri, T. K., Uriel, N., Ausiello, J. C., Accili, D., Freedberg, D. E., Baldwin, M., Schwartz, A., Brodie, D., Garcia, C. K., Elkind, M. S. V., Connors, J. M., Bilezikian, J. P., Landry, D. W., & Wan, E. Y. (2021). Post-acute COVID-19 syndrome. Nat Med, 27(4), 601-615. https://doi.org/10.1038/s41591-021-01283-z

Nature medicineのCOVID後遺症に関するレビュー論文です.改めて新型コロナ感染は全身に異常を引き起こし,それが長い期間続いていることがわかります.

前説2.ハゲタカジャーナルについて.

初めて聞くという人も多いみたいで,ハゲタカの餌食ランキングやハゲタカ投稿実験の話も面白かったようです.
投稿実験のペーパーが面白かったです(写真参照).延々Get me off Your Fucking Mailing List(クソメーリングリストから私を外せ)って書いてます(笑) 見事ハゲタカにアクセプトされました,査読無ってこういうことです.

気持ちはとてもわかります・・・コレスポンデンスオーサーは議論のためにメールアドレスを公開しているので,毎日ハゲタカから編集部や論文掲載依頼のメールが来ます.まともなメールもまぎれてたりするから,うざいことこの上ないですね.

先日長崎のメディアがハゲタカ論文を信頼できるもののように報道していました.これを受けて,ハゲタカ業者がサプリの売上を伸ばしたりしております.

新型コロナ報道でも,真実は自分の目で見極める必要がある,と多くの人は感じているのではないでしょうか.

少なくともメディアは影響力あるので,一次文献確認する努力をしてほしいなと思います.

前説3.保湿実験の研究方法と結果発表.

こんな結果でした.

思いがけない結果もあり(図を見て察してください!),やっぱり実験は面白いですね.
私にとってこの中でベストな保湿剤はプロペトでした!

ジャーナルクラブメンバーは研究方法にも関心をもって聞いてくださいました.めったにやられない実験方法だから,お披露目できる機会があってよかったです.

2.論文抄読(クリティーク)

今回のクリティーク論文はこちら.

Tan, C.-S., Tan, S.-A., Mohd Hashim, I. H., Lee, M.-N., Ong, A. W.-H., & Yaacob, S. n. B. (2019). Problem-Solving Ability and Stress Mediate the Relationship Between Creativity and Happiness. Creativity Research Journal, 31(1), 15-25. https://doi.org/10.1080/10400419.2019.1568155

創造力と幸福度の関係について問題解決能力やストレスを使って媒介分析を行った研究です.

楽しく強みや弱みや研究背景をつっこみました.

担当者の方が丁寧に全文訳をしてきてくださってみんなの理解も深まったと思います.回を重ねるごとに研究を評価する力がついていくのがジャーナルクラブのすごいところです.オーディエンスでも十分楽しめますが,担当になるともっと楽しいです.

次回は9月4日(土)13時~16時

オンラインオフライン参加可能.詳しくは下記ご参照ください.

【ジャーナルクラブについて】

Ai国際医療研究所では,月に1回英語の学術論文を持ち回りで読む抄読会,ジャーナルクラブを行っています.
参加者のデモグラは様々,それぞれが興味をもった生活や仕事に役立つ,信頼性の高い論文(RCT、系統的レビュー等)を持ち込み,クリティーク・批判的吟味・議論をしております.
複数でディスカッションすることで,わからないところを聞きあったり,知識を補完したりでき,一人で読むより理解が深まり面白いです.この著者ってどんなひと?研究論文の向こうにあるドラマを想像したりするのも楽しいです.
聞くだけ参加(オーディエンス)も可能ですが,楽しむために各自当該論文を読み、ぜひクリティークに参加して下さい.オーディエンスの方は、Zoomで名前、ビデオオフでも構いません。
ジャーナルクラブは以下のような方におすすめです.
・扱う研究内容に興味がある方
・英語論文に慣れたい方
・学術論文の読み方,クリティークを勉強したい方
・大学院進学を予定されている方
・ジャーナルクラブがない研究室に所属している方
・仕事や生活で根拠を必要とする方
・信頼性の高い情報の取得の仕方を学びたい方
・医療関係者
・メディア関係者
・講師業
・美容健康関連の方
・本会に関心がある方


【料金】3000円


【参加方法】
https://forms.gle/tHsHY3PMpGZcicbq8
アンケートを頂いた方に支払い方法をお知らせします。
学術論文の読み方講座を受講された方は半額クーポンをお渡ししています。
アンケートを記載、入金確認後にZoomアドレスと資料,詳細をお送りします.

クリティーク論文提供希望者たちが持ち回りで英語論文を担当しています.プレゼンする方が理解は深まり力がつきますので,おすすめです.


担当者の翻訳提供は必須ではありませんが,少なくともアブストラクト,キーワードくらいまで訳を提供していただくと,みんなの共通理解が得られて助かります.
聞くだけ参加(オーディエンス)も可能ですが,楽しむために各自当該論文を読んでこられることをお勧めしております.

オーディエンスの方は、Zoomで名前、ビデオオフでも構いません。
学術論文の読み方講座を受講し基礎的な知識を身に着けることをお勧めしています.講座についてはこちらをごらんください.
https://ai-medical-ri.com/academicpaper/

不明な点はFaceBook経由か,問合せフォームよりお気軽にお尋ねください.

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第23回ジャーナルクラブ予約開始:創造力と幸福度の関係/新型コロナ後遺症レビュー

7月のジャーナルクラブは下記の内容でお送りします.オンライン&オフラインです.予約方法については下をご覧ください.

1.最新論文解説
【COVID19後遺症に関する論文をピックアップ紹介】
レビュー論文を読んでいると,改めて新型コロナ感染は全身に異常を引き起こし,それが長い期間続いていることがわかります.

2.論文抄読
今回のクリティーク論文はこちら.
Tan, C.-S., Tan, S.-A., Mohd Hashim, I. H., Lee, M.-N., Ong, A. W.-H., & Yaacob, S. n. B. (2019). Problem-Solving Ability and Stress Mediate the Relationship Between Creativity and Happiness. Creativity Research Journal, 31(1), 15-25. https://doi.org/10.1080/10400419.2019.1568155

創造力と幸福度の関係についての論文です.これらに問題解決能力とストレスがどうかかわるのか?
面白い結果でした!


【ジャーナルクラブについて】

Ai国際医療研究所では,月に1回英語の学術論文を持ち回りで読む抄読会,ジャーナルクラブを行っています.
参加者のデモグラは様々,それぞれが興味をもった生活や仕事に役立つ,信頼性の高い論文(RCT、系統的レビュー等)を持ち込み,クリティーク・批判的吟味・議論をしております.
複数でディスカッションすることで,わからないところを聞きあったり,知識を補完したりでき,一人で読むよりずっと理解が深まります.
研究論文の向こうにあるドラマを想像したりするのも楽しいです.

ジャーナルクラブは以下のような方におすすめです.
・扱う研究内容に興味がある方
・英語論文に慣れたい方
・学術論文の読み方,クリティークを勉強したい方
・大学院進学を予定されている方
・ジャーナルクラブがない研究室に所属している方
・仕事や生活で根拠を必要とする方
・信頼性の高い情報の取得の仕方を学びたい方
・医療関係者
・メディア関係者
・講師
・美容健康関連の方
・本会に関心がある方

【料金】3000円

アンケートを頂いた方に支払い方法をお知らせします。
学術論文の読み方講座を受講された方は半額クーポンをお渡ししています。

【参加方法】

下記アンケートを記載、入金確認後にZoomアドレスと詳細をお送りします.
https://forms.gle/tHsHY3PMpGZcicbq8

参加者は持ち回りで英語論文を担当しています.聞くだけ参加(オーディエンス)も可能ですが,楽しむために各自当該論文を読み、ぜひクリティークに参加して下さい.
オーディエンスの方は、Zoomで名前、ビデオオフでも構いません。
学術論文の読み方講座を受講し基礎的な知識を身に着けることをお勧めしています.講座についてはこちらをごらんください.

https://ai-medical-ri.com/academicpaper/


6月26日 第22回ジャーナルクラブ

今月の研究紹介(前説)はこちら.

Pormohammad A, Zarei M, Ghorbani S, Mohammadi M, Razizadeh MH, Turner DL, Turner RJ. Efficacy and Safety of COVID-19 Vaccines: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Clinical Trials. Vaccines (Basel). 2021 May 6;9(5):467. doi: 10.3390/vaccines9050467. PMID: 34066475; PMCID: PMC8148145.


COVID-19ワクチンの効果と安全性:無作為化比較試験の系統的レビューおよびメタ解析


いよいよ自分達もワクチン接種が近づいてまいりました.

副作用不安という人も多いと思うので,最新の情報を提供.皆さんの判断にお役に立てればと思います.

各ワクチンの特徴,副作用や効果などについて研究結果を解説させて頂きました.

早く打って安全安心な日々をとり戻したいです.

クリティーク論文はこちら


※急性虚血性脳卒中患者に対する心拍変動バイオフィードバックの効果:無作為化比較試験


Chang, W.-L., Lee, J.-T., Li, C.-R., Davis, A. H. T., Yang, C.-C., &
Chen, Y.-J. (2020). Effects of Heart Rate Variability Biofeedback in
Patients With Acute Ischemic Stroke: A Randomized Controlled Trial.
Biological Research For Nursing, 22(1), 34-44.
https://doi.org/10.1177/1099800419881210
呼吸コントロールの介入がHRVを向上し精神状態,認知機能を向上させるとのことで,面白いので実際に体感、実験しました.
これまで読んできた研究の中の介入は今まで教育プログラムとかが多くてあまりピンとこなかったと思うのですが,今回みたいに実際にやってみることができる介入は楽しいですね.また自分担当の時は面白そうなRCTを選びたいと思います.

Effects of Heart Rate Variability Biofeedback in Patients With Acute Ischemic Stroke: A Randomized Controlled Trial


Abstract

Background: Autonomic dysfunction, cognitive impairment, and psychological distress are associated with poorer prognosis in patients with acute ischemic stroke (AIS).
Heart rate variability (HRV) biofeedback (BF) improves autonomic dysfunction, cognitive impairment, and psychological distress in other patient populations, but its effect in patients with AIS is still unclear.
Objective: This study investigated the effects of an HRVBF intervention on autonomic function, cognitive impairment, and psychological distress in patients with AIS.
Method: In this randomized, controlled, single-blind trial, patients with AIS were randomly assigned to the experimental or control group.
The experimental group received four HRVBF training sessions.
The control group received usual care.
Repeated measures of HRV, mini-mental status examination (MMSE), and Hospital Anxiety and Depression Scales (HADS) were collected prior to and at 1 and 3 months postintervention.
Results: A total of 35 patients completed the study (19 experimental, 16 control).
HRV and HADS significantly improved in the experimental group (p < .001) but not in the control group.
Likewise, only the experimental group showed significant improvements in HRV, MMSE, and HADS over time (p < .05).
Conclusion: HRVBF is a promising intervention for improving autonomic function, cognitive impairment, and psychological distress in patients with AIS.
More studies of HRVBF interventions are needed to further optimize the effects of HRVBF on autonomic, cognitive, and psychological function in patients with AIS.
Keywords
acute ischemic stroke, biofeedback, autonomic dysfunction, cognitive impairment, psychological distress

急性虚血性脳卒中患者に対する心拍変動バイオフィードバックの効果:無作為化比較試験


要旨
背景:自律神経機能障害、認知障害、および精神的苦痛は、急性虚血性脳卒中(AIS)患者の予後不良と関連している。
心拍変動(HRV)バイオフィードバック(BF)は、他の患者集団における自律神経機能障害、認知障害、精神的苦痛を改善するが、AIS患者におけるその効果はわかっていない。
目的:本研究では、AIS患者の自律神経機能、認知障害、および精神的苦痛に対するHRVBF介入の効果を調査した。
方法:本無作為化比較対照一重盲試験では、AISの患者を介入群または対照群にランダム割りつけした。
介入群は、4回のHRVBF訓練を受けた。
対照群は通常ケアを受けた。
HRV、ミニメンタルステート検査(MMSE)、および不安抑うつ尺度(HADS)を、介入前、介入1か月後および3か月後に収集した。
結果:合計35人の患者が調査を完遂した(介入群19人、対照群16人)。
HRVとHADSは、介入群(p <.001)のみ有意に改善した。
HRV、MMSE、およびHADSも介入群のみ時間と共に有意な改善があった(p <.05)。
結論:HRVBFは、AIS患者の自律神経機能、認知障害、および精神的苦痛を改善するための有望な介入ある。
AIS患者の自律神経、認知、および心理的機能に対するHRVBF効果をさらに最適化するために、さらにHRVBF介入研究が必要である。
キーワード
急性虚血性脳卒中、バイオフィードバック、自律神経機能障害、認知障害、精神的苦痛

次回は7月24日13時~の予定です.場所は長崎市ですが未定です.
オンライン聴講も可能です.
参加ご希望の方はDM,メールなどでお問い合わせください.

よい習慣を身に着け維持するためには?

2021年5月29日(土)、定例ジャーナルクラブでした。

今回は前説はインフォデミックに関する論文、どんな人がデマ情報を信じやすいか、その対処は?という論文を読んでいます。

 「Covid-19 インフォデミック -誤情報に対する疫学モデル応用」

Scales, D., Gorman, J., & Jamieson, K. H. (2021). The Covid-19 Infodemic — Applying the Epidemiologic Model to Counter Misinformation. New England Journal of Medicine. https://doi.org/10.1056/NEJMp2103798

スライドの一部を公開しますので、みてみてくださいね^^

アメリカのインフォデミック例、興味深いです。日本ではここまで有力者がインフォデミックのトリガーになったということはなかった気がします。

陰謀論(笑)、予防行動やワクチン抵抗性に関する相関研究では、陰謀説信じている度合いの高い人は予防措置(マスク等)やワクチンへの抵抗感が高いかもしれないと示唆しています。

詳しくはこちらをおよみください。

Romer, D., & Jamieson, K. H. (2020). Conspiracy theories as barriers to controlling the spread of COVID-19 in the U.S. Social Science & Medicine, 263, 113356. https://doi.org/https://doi.org/10.1016/j.socscimed.2020.113356

今回のジャーナルクラブはこちらの論文でした。

Kwasnicka, D., Dombrowski, S. U., White, M., & Sniehotta, F. (2016). Theoretical explanations for maintenance of behaviour change: a systematic review of behaviour theories. Health Psychol Rev, 10(3), 277-296. https://doi.org/10.1080/17437199.2016.1151372

ABSTRACT
背景:行動変容介入は、「一時的」な行動変容を達成するための支援として有効である。しかし、行動変容の「維持」はほぼ達成されない。本レビューの目的は、将来の研究及び実践に役立つよう、行動変容維持に関する現在の理論的説明を特定し、統合することである。
方法:関連する可能性のある理論を電子データベース(Ovid MEDLINE、Embase、PsycINFO)を系統的に検索し特定した。加えて、80の理論からなる既存のデータベースを検索し、25人の理論専門家に意見を求めた。行動変化の維持に関する仮説が記載されたもののみ理論として選択した。選択された理論は、行動変化維持に関する包括的説明を特定するためにテーマ別に統合された。初期の理論的テーマは相互検証された。
結果:117の行動理論が確認され、そのうち100の理論が選択基準を満たした。行動変化維持の理論的説明を代表する包括的で相互関係がある5つのテーマが浮上した。行動変化維持の理論的説明は、開始から維持までの動機、自己調整、資源(心理的および物理的)、習慣、および環境と社会の影響の異なる性質と役割に焦点を当てている。
考察: 行動変容の理論的説明と行動変容維持の理論的説明には明確なパターンがある。このレビューから得られた知見は、健康行動の維持を促進する介入の開発と評価の指針となり、行動変化維持の統合理論の開発に役立つ。

ジャーナルクラブで初めて取り扱う質的研究でした。

量的系統的レビューは読んだことがありましたが、質的系統レビューは初めてだったので、違和感があるし、読むのは大変だったと思います。

でもこれはこれで、大切な、重要な、価値がある研究です。

質的研究は、難しく深いです。

よく院生が質的研究やりたい、と言いますが、やるなら何年もかかることを、膨大な時間とエネルギーが必要であることを覚悟した方がよいです。

博士課程の時に質的研究を馬鹿にしてるドクターを見ましたが、私はちゃんとした質的研究ができる研究者は尊敬しているし、貴重だと思っています。

質的研究者は自分自身がツールです。

数字で出す方が簡単。

データアナリストも沢山育っていますし、計算するだけなら多くの人ができますが、現象を正しくとらえ、聞き取り、それを誰が見ても正しく表現することができる力のある人は少ないです。

今回の論文は丁寧に、紡ぎあげられたよい論文でした。

100本、一つ一つの文献を読み、イントロダクションも丁寧に引用を使いながら自分たちの研究の意義を語っていました。

結果は、主観が前面に出ますのでクリティークもやや厳し目になりましたが、ディスカッションできちんと研究の限界もつづられていました。

正直、私は質的研究論文は読まないのですが、久しぶりに読んだこの論文で、質的研究はやはり必要なんだと強く感じましたし、貴重な機会となりました。

だから、ジャーナルクラブは面白いんですよね・・・

次回のジャーナルクラブは6月26日です。

見学希望の方はこちらまでご連絡ください。

main@aimedicalri.com

第2回長崎がん術後QOL・リンパ浮腫研究会

本日は、長崎がん術後QOL・リンパ浮腫研究会というリンパ浮腫に関心をお持ちの医療者の集まりに参加させて頂きました。

久しぶりに臨床の生のお話を聞けて、関心しきりでした。

その方にあったバンデージを手作りしたり、希少症例提示してベストなケアを模索されたり、日々丁寧にケアに当たっている医療者の皆さんの姿に心打たれます。

参加させて頂きありがとうございました。

次回は私も発表させて頂けるとのことで、18年に発表した研究を提示させていただこうと思います。

リンパ浮腫の測定にはいろんな方法、ツールがあるのですが、一つでなく複数を組み合わせて診断、評価するのがよいとされています。

私が使っているツール、評価法に関しては博論に詳しく書いております。

https://tohoku.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=69628&item_no=1&page_id=33&block_id=38

どの方法がよりリンパ浮腫がある事実を反映するのか、また、だれでもできる方法(実行可能性)を模索した結果でもあります。

簡単な計算で、ぐんと評価の精度があがったりするので、ぜひお使いください。

周囲計測定→円錐台に換算し全体の体積を予測する方法 はリンパ浮腫研究の大家Casley Smithから学びました。

Casley-Smith J: Modern treatment for lymphoedema., 5 edn: The Lymphoedema Association of Australia.Inc; 1997.

相対的体積変化率(Relative Volume Change:RVC)はベースラインの健側上肢と患側上肢体積の非対称性と、タイムポイント間での差を考慮し、患側上肢体積の変化を観察していく方法です。

Ancukiewicz M, Miller CL, Skolny MN, O’Toole J, Warren LE, Jammallo LS, Specht MC, Taghian AG: Comparison of relative versus absolute arm size change as criteria for quantifying breast cancer-related lymphedema: the flaws in current studies and need for universal methodology. Breast Cancer Res Treat 2012; 135(1):145-152.

ちなみにこの写真のシステムは、この研究のために作成したもので、経過をグラフ化することができます。

ほかにも周囲計測定にはこちらの重り付きメジャーを使用して、メジャーのたるみすぎやひきしめすぎによる誤差をなくす工夫をしていました。

いかに誤差をなくすか、正しくその現象を表す評価をするかが重要です。

臨床、研究における評価指標については、たくさん勉強してきたので、還元できるのはとてもうれしいことです^^

リンパ浮腫の皮膚の状態について

リンパ浮腫は繰り返す蜂窩織炎や線維化など、皮膚に大きな変化をもたらします。

専門家によっては、リンパ浮腫は皮膚の病変だという方もおられます。

皮膚の状態をよく保ち観察することは、リンパ浮腫の合併症を防ぐために重要です。

こちらは、昨年発表されたリンパ浮腫の皮膚状態についての研究です。

Yu, Z., Liu, N., Wang, L., Chen, J., Han, L., & Sun, D. (2020). Assessment of Skin Properties in Chronic Lymphedema: Measurement of Skin Stiffness, Percentage Water Content, and Transepidermal Water Loss. Lymphat Res Biol, 18(3), 212-218. https://doi.org/10.1089/lrb.2018.0066
https://www.liebertpub.com/doi/10.1089/lrb.2018.0066?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori%3Arid%3Acrossref.org&rfr_dat=cr_pub++0pubmed&

要旨

背景:リンパ浮腫は慢性、進行性で、軟部組織の高たんぱく性の浮腫です。リンパ浮腫検知に、患側の細胞外液の測定がよく行われています。しかしながら、リンパ浮腫の皮膚変化や早期の組織変化の定量化はあまり行われていません。
方法と結果:91名のリンパ浮腫患者を評価しました。皮膚水分蒸散量(TEWL: transepidermal water loss),皮膚の固さ(SF: skin stiffness)、水分含有量(PWC:percentage water content)をあらかじめ決めていた皮膚の5箇所で評価しました。TEWL、SF、PWCの値は、対照群(健側)と比較してリンパ浮腫皮膚で有意に増加し、患部皮膚の機能と肌理が損なわれていることを示しました。PWC比とSF比はいずれもリンパ浮腫のステージと強い相関関係がありました。組織液を評価する機器と高い相関が認められました。
結論: 皮膚パラメータ評価は、慢性リンパ腫皮膚の機能的および構造的変化に関する新たな情報をもたらしました。皮膚特性の変化を定量化することは、慢性リンパ腫の診断と評価を補完する重要な手段となるかもしれません。

皮膚水分蒸散量と皮膚の固さはリンパ浮腫ステージと相関

TEWL(皮膚水分蒸散量)やSF(皮膚の固さ)がリンパ浮腫の状態と関連があることは以前から知られています。

これらの測定に関心がある方は問合せフォームよりご連絡ください。

4月30日子供の遊び場の変遷研究

本日は子供の遊び場の変遷についての論文でした

今日の前説「最新論文解説」はこちらでした。

Anderson, J. L., May, H. T., Knight, S., Bair, T. L., Muhlestein, J. B., Knowlton, K. U., & Horne, B. D. (2021). Association of Sociodemographic Factors and Blood Group Type With Risk of COVID-19 in a US Population. JAMA Netw Open, 4(4), e217429. https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2021.7429

アメリカのCOVID-19リスクー社会人口統計学的因子と血液型の相関研究です。

これまで、血液型とCOVID-19感染や重症化は関係があるというものとないというもの、色々な研究報告がありましたが、2021年4月に出た本研究では大規模前向きケースコントロール研究で血液型は関係ないだろうと結論づけられておりました。

107,796サンプルにおいて、感染有無、入院有無、ICU入室有無において、血液型によって多いとか少ないとかということがなかった、ということです。

中国やイタリア、スペインの研究でA型は感染しやすい、重症化しやすいとかいう報告がありましたが、サンプルサイズや後方視的研究なので、今回の研究の方がより信頼性が高いように見えます。

ただし、地理的なもの、人種など遺伝学的な要素(血液型分布は地域や民族によって異なる)など様々な考慮すべきこともあるので、絶対ではありません。

研究は確からしい結果を求めてバイアスが入らないように、きめ細かい計画のもと、実施しますが、「絶対」はありません。

沢山のお金とエネルギーと高い能力をつぎ込んで行われた実験や調査でも、「絶対」はないので、市販の、街中にあふれるものの「効果」とか「効能」というものの実態がどんなものか、ご想像していただけたらと思います・・・。

次回の最新論文解説もCOVID-19に関連したものを選んで行いたいと思います。

次に今日の本題はこちらです。

A Study on Changes to the Form of Children’s Playgrounds in Japan by Analyzing the JILA Selected Works of Landscape Architecture.

Qing Qin , Kazuhiko W. Nakamura , Kiyotatsu Yamamoto and Akio Shimomura. Sustainability (2019)

全文はこちらにあります。

https://www.researchgate.net/publication/332338813_A_Study_on_Changes_to_the_Form_of_Children’s_Playgrounds_in_Japan_by_Analyzing_the_JILA_Selected_Works_of_Landscape_Architecture

論文を読むときに、なぜその論文を読もうと思ったか、なぜその論文を選んだのかを知ることは、その人の目的が達成できるようサポートするために必要なことです。

興味関心を満たすため、研究課題を達成するため、バックグラウンドは様々でしょうが、どの論文を読んでも無駄にはならないとはいっても、より為になる、役に立つ論文の読み方をしてほしいと思っています。

今日の担当の方は、「長崎を魅力ある街にするためには何が必要か」ということを知り、行政に提案したいという熱い思いを持っておられます。

わたしたち、Ai国際医療研究所やNagasaki Wellness、Navigate Nagasakiと通じるところがあります・・・

長崎はいいところ、という評判の傍ら、社会的人口流出No1です。

その大半は生産人口です。

大学生たちは、卒業すると県外に就職します。

若い世代を定着させたい、という思いは同じだと思います。

提示された論文は、「遊び場の変遷」をとある造園雑誌の内容から質的量的に読み解くものでした。

「誰にとって魅力的な遊び場」なのか、という点をまずお尋ねしました。

保護者にとって魅力的な場所、というのは、保護者年代の方たちをひきつけたいので、そうなんだろう、と思います。

しかしながら、論文は公園デザイナーは子供の目線を反映して公園を作っていない、と結論づけているので、この著者にとっての魅力的な遊び場のターゲットは子供だったんだな、とわかりました。

この結論もせっかくの統計解析結果を反映していないですし、解析の対象が1造園関係雑誌のデータなので、かなり限界がありますが、先行文献の検討はとても丁寧でよかったです。

子供の遊び場や、造園についての研究は、医学研究ほどきちんとした研究方法が確立していないのかもしれません。

研究結果と結論がつながっていなくて、また、日本全体の子供の遊び場を反映した結果でもないので、今後の研究で頑張ってほしいと思います!

研究目的に沿って、丁寧にデザインされ、知りたい結果がでた一貫性のある研究は美しく、長く使われ引用されます。

そのフィールドで長く丁寧に研究してきた研究者たちの研究は、どんな本よりも読む価値があると私は思っているので、ぜひ、皆さんも学術論文、チャレンジしてみてください!

次回のジャーナルクラブ

次回読む論文は決まり次第こちらでご報告します。

日時:5月29日(土)13時~

場所:出島交流会館予定(場合によってはZOOM)

参加・見学ご希望の方はこちらをご参照ください。

申込フォームはこちらです。

https://forms.gle/5EioHs7zcNEkA6MV9

4月ジャーナルクラブ予定

子供の遊び場に関する研究論文

今月のジャーナルクラブで読む論文は長崎大学の先生がお持ち込みされたこちらのペーパーです。

A Study on Changes to the Form of Children’s Playgrounds in Japan by Analyzing the JILA Selected Works of Landscape Architecture.

Qing Qin , Kazuhiko W. Nakamura , Kiyotatsu Yamamoto and Akio Shimomura. Sustainability (2019)

全文はこちらにあります。

https://www.researchgate.net/publication/332338813_A_Study_on_Changes_to_the_Form_of_Children’s_Playgrounds_in_Japan_by_Analyzing_the_JILA_Selected_Works_of_Landscape_Architecture

子供の遊び場の変遷に関する論文!!!

はじめてのフィールドです(笑)

いつも読んでいるのは医学系、行動科学系、観光系なので、最初こちらを提示されたときは・・・・😲したのですが、それぞれが興味がある論文を読むのがジャーナルクラブ、気を取り直して読みました(笑)

ジャーナルクラブ初めての方の担当ですが、知らない世界の研究解説楽しみです!!

開催は毎月末くらい、今月は4月30日です。

来月はまだ未定なのですが、Zoomでの参加もできます。

ご関心のある方は問合せフォームからお願い致します。