乳がん関連リンパ浮腫患者における10分間包括的セルフケア:パイロット無作為化比較試験(2019)サマリー

今年三月に国際学術雑誌に乳がん関連リンパ浮腫患者におねる10分の包括的セルフケア:パイロット無作為化比較試験(The 10-Min Holistic Self-Care for Patients with Breast Cancer-Related Lymphedema: Pilot Randomized Controlled Study)を発表しましたが、英語なので本語サマリーを掲載しました。

乳がんに関わる医療者、患者様、ご家族の皆様に参考にしていただけますと幸いです。

要旨(英語)

About 20% of patients with breast cancer are likely to develop breast cancer-related lymphedema (BCRL) following an axillary clearance, and BCRL can be refractory or irreversible to treatment.

The aim of this pilot randomized controlled study was to evaluate the effectiveness of a 10-min holistic self-care program for patients with BCRL in Japan.

The intervention group (n = 22) practised the BCRL self-care program including 1) modified Japanese Radio Taiso (Rajio Taiso, national calisthenics in Japan), 2) gentle arm exercises combined with deep breathing, 3) central lymphatic drainage, and 4) skin care using a traditional lymphatic drainage technique daily for 6 months, while the control group (n = 21) received usual care from their hospitals.

There was significant group*time interaction in the relative edema volume and relative volume change of the hand, with the intervention group having the better outcome. The intervention group showed significant improvement in transepidermal water loss as well as the mental health component summary score of the SF-8, most of BCRL-related symptoms, self-care time and score, frequencies of exercise, self-lymphatic drainage and skin care, and perceived adherence and effectiveness to self-care, although we were unable to exclude the possibility of the Hawthorne effect. Notably, even in the control group, the self-care was similarly increased, but the significant improvements were detected only in transepidermal water loss on the forearm and upper arm, pain and coldness.

In conclusion, the patients who practiced the holistic BCRL self-care for 6 months have shown greater improvement.

要旨和訳

本研究は第二相研究で少人数での無作為化比較試験です。以下要旨訳および追記です。

【目的】乳がん関連リンパ浮腫日本人患者への10分間の包括的セルフケアの効果を評価しました。

【方法】介入群(22名)は1)改編したラジオ体操、2)深呼吸と共に行うマイルドな上肢エクササイズ、3)中心リンパクリアランス、4)SLD(セルフリンパドレナージ)テクニックを使ったスキンケアを含む10分間のセルフケアを、対照群(21名)は、かかりつけの病院の指導内容に沿って標準的セルフケアを6か月間実施しました。

【結果】手の相対的浮腫体積と相対的体積変化率の群×時間で有意な交互作用がありました。介入群の方が改善を認めました。介入群は経皮水分蒸散量、SF-8の精神的側面のQOLサマリースコア、ほとんどのリンパ浮腫関連症状、セルフケア時間とセルフケアスコア、エクササイズ・SLD・スキンケアの頻度、主観的な自主的・積極的なセルフケア実施の程度(アドヒアランス)と効果感が有意に改善しました。対照群も同様にセルフケアが改善しホーソン効果*が考えられましたが、改善した項目は前腕と上腕の経費水分蒸散量と症状では痛みと冷感のみでした。結論として、6か月間の包括的セルフケアを実施した介入群でより改善が見られました。

*ホーソン効果はWikiを参照してください。調査を受けるということが引き金になり、対照群もセルフケアを積極的に始めました(なかにはラジオ体操や運動を始めた方もおりました)。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%82%BD%E3%83%B3%E5%8A%B9%E6%9E%9C

研究本文、関連研究は下にリンクがありますが、研究方法、用語などについて簡単に説明します。

研究の限界を含む考察、引用・参考文献は本文をご覧ください。

研究背景

乳がん手術で腋窩リンパ節切除を受けた患者さんの20%が同側上肢にリンパ浮腫を発症する可能性があります。発症すれば根治的治療法がないため、生涯を通じてセルフケアが必要となります。

これまで、リンパ浮腫発症予防や緩和のためにリンパ浮腫複合的治療に基づくセルフケアが指導されてきました。このリンパ浮腫セルフケアというのは、スキンケア、医療徒手リンパドレナージ、圧迫療法、エクササイズ、日常生活上の注意などを含みます。

しかし、医療徒手リンパドレナージは複雑です。リンパ管は薄い皮膚の直下に蜘蛛の巣のように張り巡らされている表在リンパ管と深いところにある深部リンパ管がありますが、ドレナージでアプローチできるのは、皮膚数ミリ下にある表層リンパ管です。ドレナージの向きや手順、かける圧など、やり方によってはリンパ浮腫が悪化する可能性があるため、指導する医療者は特別なトレーニングを受けなくてはなりません。資格を得るためには、多額の受講料と長い時間と訓練が必要です。

これを自宅で毎日実施する患者さんも大変です。このドレナージは難しい上に、1回20分以上の実施を推奨されており、1日2回実施を薦められると1日40分以上かかってしまいます。また、クリームやローションを塗りながら実施することはよくないとされているため、そのほかのセルフケアの時間はまた別にとらなくてはなりません。

私はアロマセラピーやマッサージを長く患者さんに行ってきましたし、このドレナージに効果はあるのだろうとは思いましたが、自分が患者になった場合、毎日20分~40分以上のドレナージとエクササイズ、スキンケア、圧迫療法などをやれるかというと難しい印象を受けました。

ドレナージについての論文を読んでいくと、その効果に賛否があることがわかりました。確実に効果があるといえない上に、時間と労力が必要なセルフケア方法に疑問を持ち、自分でもやれるかもしれないと思えるようなリンパ浮腫セルフケアについて博士後期課程で研究をすることにしました。

私がこの研究を始めたころ、リンパ浮腫に対するエクササイズの研究がいくつか見られるようになっていました。病院によっては、リンパ浮腫の患者さんは運動すると悪化するので安静にしている方がいい、という指導をされていましたが、例えばウェイトリフティングのような運動をしてもリンパ浮腫は悪化しない、というような研究が出てきたのです。リンパ管自体には自動収縮機能は殆どないため、リンパ液輸送は、筋収縮、拍動、呼吸による外的動力に大きく依存しています。つまり、ストレッチやウェイトリフティングを含む全身運動はリンパ浮腫悪化防止に役立つ可能性があるという背景をもとに、エクササイズを中心にしたセルフケアの効果に関する実験を始めました。

研究方法

介入群は下記の内容を含むセルフケアプログラムをやってもらいました。1)改編したラジオ体操(スーパースローラジオ体操と呼んでいます)、2)太極拳呼吸法を用いたマイルド上肢エクササイズ、3)中枢リンパクリアランス、4)スキンケア+SLD(セルフリンパドレナージ)

1)スーパースローラジオ体操(自分で決めた時間に1日1回、3分程度)

ラジオ体操第1の効果は事前研究(実施後60 分後に両上肢で50-60mlの水分量減少、博士論文参照)および第一相研究で確認していました。普通の速度ではなく、ゆっくり二分の一程度の速度と回数で実施してもらいました。ゆっくりした動作は,拘縮した筋肉や創の損傷予防,遠心力による末梢側へのリンパ液の移動予防,また,筋肉の緊張を長時間持続することで筋肉強化を図るためです。

2)太極拳呼吸法を用いた上肢エクササイズ(入浴前に1日1回、1分程度)

深呼吸と共にゆっくり上肢を開閉する運動を5回してもらいました。下記が根拠となる論文で、上肢の水分量を有意に減少させるという結果でした。

Moseley A. L., Piller N. B., Carati C. J. (2005): The effect of gentle arm exercise and deep breathing on secondary arm lymphedema, Lymphology, 38(3), 136–145.

3)中心リンパクリアランス(シャワー又は入浴中1日1回、1分程度)

首,肩,上腕から鎖骨窩リンパ本幹に向かって軽擦法を行ってもらいました。

4)スキンケア+SLD(入浴直後、3分程度)

ロート製薬ディーアールエックス® AD パーフェクトバリア® ボディミルク

入浴直後皮膚の水分が蒸散しないうちに実施し,患側の肩,上腕,前腕,手の順に鎖骨窩リンパ本幹に向かってロート製薬株式会社のディーアールエックス® AD パーフェクトバリア® ボディミルクを塗布しながら軽擦を行ってもらいました。各部位一度ずつ撫でる程度で保湿が主な目的です。第Ⅰ相試験ではスウィートアーモンドオイルとグレープフルーツオイルを使ったのですが、赤くなるなどの皮膚反応を起こす対象者がいたため、本試験では、アトピー性皮膚炎で安全性と効果を検証された本剤を使用しました。リンパ浮腫は皮膚の問題であると言っている研究者もいるように、皮膚バリア機能が低下した対象者に配慮し、保湿剤を選びました。

セルフケアパンフレット2ページ目
セルフケアパンフレット1頁目

介入群と、実験終了後に対照群の方にもお渡し説明をした本セルフケアパンフレットの一部を掲載しますが、実施に関してはかかりつけ医や医療専門家の意見を聞いてください。

下記は研究フローです。6か月間フォローし以下の通り測定を行いました。

研究フロー

L-Dexはリンパ浮腫インデックスといって、片側リンパ浮腫の方の健側と患側の細胞外液量の比率を示します。この機械と評価指標はリンパ浮腫測定において信頼性妥当性を証明されています。今回の研究で主要評価項目でしたが、効果は認めませんでした。

REV(Relative Edema volume)は相対的リンパ浮腫体積で、患側上肢と健側上肢体積の相対的な差を示します。

RVC(Relative Volume Change)は相対的体積変化率で以下の計算式で算出される、リンパ浮腫測定で信頼性妥当性のある指標です。

TEWL(Transepidermal water loss)は皮膚水分蒸散量で、皮膚のバリア機能の指標として使われます。日機装サーモのH4500という信頼性妥当性を検証された機械で測定しました。リンパ浮腫の方は皮膚のトラブルが発生しやすく、2割が蜂窩織炎を経験し、その半数は反復性で、皮膚バリア機能はとても重要です。

http://www.nktherm.com/products/meters/suibun_meter.html

Skin induration、皮膚の固さはトノメーターというフリンダース大学のメディカルエンジニア部門でリンパ浮腫研究のために開発された機械で測定しました。これも信頼性妥当性が証明されています。リンパ浮腫が悪化すると皮膚が線維化し固くなったりします。

http://www.flinders.edu.au/medicine/sites/biomedical-engineering/supporting-research/indurometers.cfm

データ管理、各評価項目の自動計算、出力は、本研究のために開発した上肢浮腫ケア経過管理システム(IGM Co., Ltd., Tokyo, Japan)で行いました(こちらのシステムは譲渡可能です)。

BCRL-related symptoms、リンパ浮腫関連症状は自記式評価でLYMQOLやULL27、専門家の意見を参考にアイテムを選びました。

Health-related QOL、健康関連QOL(Quality of life、生活の質)はSF8で測定しました。身体的側面と精神的側面のサマリースコアを提示しています。

セルフケアは1日のセルフケア時間、セルフケアスコア(実際にセルフケアをやったか確認するスコア)、エクササイズ・スキンケア・SLDの頻度、セルフケアに対するアドヒアランス、効果感、負担感などを評価してもらいました。

ベースライン測定結果はこちら。

ベースラインでグループ間に有意差はありません。リンパ浮腫関連症状のアイテムは下記の通りです。

実験の結果はこちら。

この研究及び関連する研究論文はこちら。全てオープンアクセスでフルテキストが読めます。

ARINAGA, Yoko, et al. The 10-Min Holistic Self-Care for Patients with Breast Cancer-Related Lymphedema: Pilot Randomized Controlled Study. The Tohoku journal of experimental medicine, 2019, 247.2: 139-147.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30799328

Arinaga, Y., Sato, F., Piller, N., Kakamu, T., Kikuchi, K., Ohtake, T., Sakuyama, A., Yotsumoto, F., Hori, T. &Sato, N. A 10 Minute self-care program may reduce breast cancer-related lymphedema: a six-month prospective longitudinal comparative study. The Journal of Lymphology. 49, 93-106. 2016.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29906367

Arinaga, Y., Piller, N. &Sato, F. How can we know the true magnitude of any breast cancer-related lymphoedema if we do not know which is the true dominant arm? Journal of Lymphoedema. 11, 27-34. 2016.

https://www.woundsinternational.com/resources/details/how-can-we-know-true-magnitude-any-breast-cancer-related-lymphoedema-if-we-do-not-know-which-true-dominant-arm

有永洋子, 佐藤冨美子, 佐藤菜保子, 柏倉栄子. 乳がん治療関連リンパ浮腫患者へのセルフケアプログラムによる患側上肢体積減少効果. 日本看護科学会誌 35, 10-17. 2015.(査読有)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jans/35/0/35_201503/_pdf

有永洋子, 佐藤冨美子, 佐藤菜保子. 乳がん治療関連リンパ浮腫セルフケアプログラムによる患側上肢体積減少と患者特性との関連. 日本がん看護学会誌 29, 2015.(査読有)

https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.7007200623

【博士論文】アロマセラピーと簡易エクササイズを用いたセルフケアプログラムによる乳がん治療関連リンパ浮腫管理に関する研究. 2014-03-26

https://tohoku.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=69628&item_no=1&page_id=33&block_id=38

Arinaga, Y., Holistic management of lymphoedema in Japan: two contrasting cases. Journal of Lymphoedema 7, 40-43. 2012.

https://www.woundsinternational.com/uploads/resources/content_11237.pdf

学会発表はこちらでご覧頂けますが、全て論文化しておりますので、フルテキストを読んでいただけますと幸いです。

本研究に関心を持っていただきありがとうございます。研究や測定のことで質問などございましたら、下記までご連絡くださいませ。

リンパ浮腫の患者様の測定も場合により承ります。